空飛ぶハンバーガー教団。 越前藩国に存在する、宗教団体。 しかしその教義が「他人を笑わせること」というもののためか、世間的には芸人の梁山泊というイメージが強く、空飛ぶハンバーガー教団を、お笑い集団とか芸人の事務所だと思っている国民も少なくない。 その教団が開催する笑いの祭典、それがこの万笑節だ。 漫才、コント、落語といったものがやはり多いが、マジックやダンスのショー、折り紙切り紙のパフォーマンス、ジャグリングにパントマイム、果てはバンド演奏などといったものも舞台に上がる。 腹の底から沸き起こる笑いだけでなく、さまざまな感情の動きから笑顔を呼び起こさせるパフォーマンスも人気が高い。 教団内部はもちろんのこと、藩国内はおろかニューワールド全域から集まったパフォーマーたちが、おのれの力のすべてを尽くしてぶつかるイベント。 「……なのに、なんで俺たちはロビーで売店の手伝いをしてるのかな?」 「……予選1回戦で敗退したからッスよ、アニキ」 そんなことを呟きながら、売店に商品の搬入をする奇妙なメイクの若者二人。 「まあまあ、次回こそは予選突破、頑張りましょうにゃん」 奇抜な衣装に身を包み、キツネのかぶりものをした娘が陽気に声をかける。 「なんで見た目がキツネで語尾がネコなんだ、おみゃーは」 「ニィさんも方言混じってるナリよ」 「アネさん、キャラ変わってますって」 ロビーに点在する売店のどこでも似たような光景が繰り広げられている。 彼らはまだ実績や知名度と言った面が弱く、舞台に上がれないものたちや、舞台には上がったもののすでに出番が終わってしまい、次の出番が無いものたちだ。 それでも万笑節の空気を感じていたいと、売店の手伝いをしたり、客席案内を買って出たりしている。たまに来客から持ちネタの披露をせがまれることもあり、それが思わぬ成功に繋がる場合もあるので、彼らは決して気を抜かない。 「…っと、すげー歓声だな」 「どの芸人ッスかね? こいつは決勝まで行くかな」 「ぬふ〜〜ん、次回こそはああああっ」 「うっさい黙れ」 「ぶにゃあん」 「いや、意味不明だからそれ」 「ひどいわ、セクハラよ」 「どこがじゃ!」 「存在が」 「やかましいわ!」 スパーンといいタイミングでツッコミをいれたのは芸人たちではなく、売店の主人だった。 「ほれ、休憩時間になったらどっとお客さんくるんだからな。しっかり働けよ」 「へい!」 「了解!」 「いえっさー」 「姉ちゃん関係ないだろが!」 スパーンとツッコミがもう一発。 「しっかりやれよ。次の万笑節はチケット買って、客席からお前ら見るんだからな」 「……え?」 「なんでもねえ、ほら、休憩時間の放送入ったぞ。つり銭間違えんなよ!」 「おっす!」 まだ無名の芸人たちの元気な返事がロビーに響いた。