E96 情報戦 初宇宙 「おいおい!なんだこれは、聞いてないぞ、なんだこれは?」 「二回言った」 「二回言いたくもなるだろう!くそっフワフワして……」 重力の鎖を脱すると、そこは無重力の世界である。 対赤オーマ戦のため、越前国民一同は宇宙にあがっていたが、みなそろって無重力初体験ということで、結構な反応があちこちで見られた。 そして御多分漏れず、黒埼もまた無重力には慣れていなかった。 にもかかわらず、この傍らに座るオペレーターだけが澄ました表情をしていた。 「そりゃあ、宇宙空間ですからねえ」 「ねえって、きみは宇宙、平気なのか?」 「平気ってわけじゃないですよ?でもまあ、なんだって慣れですからね」 「若いってのはいいな…」 遠い目をする摂政を見て、切れ長の目をしたオペレーターはくすくすと笑みをこぼす。 「摂政様だってまだまだ若いじゃないですか?」 「どうだろうなー。最近はモニターにずっと向かってると目がツライよ」 「……それは単に何日もぶっ続けでモニター見てるからでは?」 「……そうかもしれないな」 はあ、とオペレーターがため息をつく。ちなみに越前では摂政のワーカーホリックは三歳の子供でも知っている事実である。 「と、味方の艦も無事に上がれたようです」 「そのようだな」 慣れない無重力に振り回されながらも、端末を操る手の動きだけは地上と変らぬ速さで黒埼は端末に映像を回した。映像にはしっかりと味方艦が宇宙に上がっている様子が映し出されている。 「いよいよだな…」 「はい。味方艦も八割終結終了してます」 「ふむ。もうすぐということか」 赤オーマとの決着。それは、越前とっての国土を汚された復讐戦でもあった。 「戦端が開かれる前に、まずはこの無重力に慣れないとな」 その幕は、間もなく開かれる。