【近接&白兵戦用】不破&赤い狐 「これは…」 洞窟の外からみなを誘導していたクレージュの声が不意に揺れた。何か一瞬だけ、前方に反応があった気がしたのだ。気のせいか…?すでに今は何の反応もないセンサーを見つめてクレージュは汗をぬぐった。 「不破…何か前方に見える?」 「いや、別段何もないが?」 嫌な予感がした。 だが、確証のない注意を促しても皆の心身の消耗を早めるだけだ。クレージュは迷った。 その時、周囲を警戒していた不破から通信がはいった。 「クレージュ。なんか感じたんだな?」 「え?」 「お前が言うなら、俺は信じる」 「不破…」 クレージュは大人しく頷いた。普段でこそ、この少年に頭の上がらない不破ではあるが、逆にこと有事とあらば、この男がどれだけ頼れる存在であるか、少年はよく知っていた。 「前方に妙な反応が一瞬ありました。敵がいるかもしれません」 「了解した!」 同時に、鞘走る刀の抜き身の輝き。薄暗い遺跡に一筋の光輝が走り、わだかまる闇を吹き散らす。 一瞬の沈黙。そして次の瞬間、今までなんの気配もなかった前方からいきなり敵意が噴き出してくる。それを見て、不破は笑みをこぼした。 「やっぱり、お前の言うことは正しかったな」 「うん、事前にわかってよかった…気をつけて!」 「ああ、心配するな。俺はお前の剣だ。お前をおいて逝きゃあしねえよ」 通信を切ると、不破は静かに他の面々を守るように前に歩を進めた。 「さって、やる時はやるってこと、ここらで見せとくかねえ」 「できれば、見せたくなかったけどな」 「違いない」 そんな冗談まじりの会話を交わしつつ敵に立ちはだかる男二人。不破と赤い狐。越前でも名だたる剣の達人―――――至金剛。 二人は敵の放つ殺気などどこ吹く風と受け流すと、常と変らぬ雰囲気のまま剣を構えた。 そこには緊張感どころか、正体のわからぬ敵を前にした不安も恐怖も見ては取れない。 常在戦場。戦人にとっての心がけとして伝わる言葉だが、この二人はまさにそれを忠実に体現していた。 敵の放つ殺気が膨れ上がる。二人は合図もせずに二手に分かれると、まるで獣のアギトを思わせる勢いで双方から敵に飛び込んでいった。