防御 「下がれ!」 「っく!」 敵からの攻撃。 咄嗟に至金剛の二人が弾かれたように前にでる。その動きには躊躇は一切ない。 越前の剣士は盾を使わない。彼らが使う武器は、片刃のそりが入った刀で、一般に東国の国々で広く愛用されている。切れ味は抜群で、使い方次第では龍の鱗さえ断てると言われている。 しかし、この刀自体は強化玉鋼を使用しているとは言っても、それだけではそこまでの強度はでない。固い玉鋼を柔らかい心鉄で覆うことで、切れ味と折れにくさという、相反すると言っていい特性を得ることに成功したのである。 折れにくさ、切れ味を両立させた稀にみる武具。しかも長い年月をかけて形状、重量、重心のバランスに至るまで洗練されつくされたその完成度。 だが、それだけで刀は終わりではない。刀が、刀としての機能を最大限に発揮するのは、無論使い手がいてこそである。刀には、単純な機能しか与えられてはいない。だが、使い手を持つことにより、刀はその機能を越えた性能を発揮する。 盾がいらないというのは、そういうことである。優れた技量をもつ使い手が刀を握った時、刀は、矛にも盾にも使うことができるのである。 単純な機能しかないゆえの応用性。それが実は刀の真の利点であるのかもしれない。 二人は敵からの重い攻撃を真っ向から受け止めた。甲高い金属音が洞窟内にひびくが、それで刀がどうにかなることはない。二人が、その攻撃を手首の微妙な返しで受け流したからである。 二人は、揃って楽しそうな笑顔を浮かべる。 「あんま戦うなとは言われてるが…」 「少しくらいならいいかねえ?」 にやりと二人して口許を歪めると、越前の誇る至金剛は戦闘を再開した。