【探索】 「まーた、色々と持ち込みましたね…」 感嘆交じりにそう呟いたのは垂れた犬耳も可愛らしい犬妖精の少年。 「鴻屋くんにいって、安く機材をそろえてもらったからな。これでも厳選した方だ」 越前の誇る電脳摂政黒埼はそう言うと、自慢気に包みからいくつもの機械を取り出した。先端にアンテナがついた棒や、背負い式の機械の塊から棒がのびたもの、双眼鏡に似た機械。 これ全て、今回の探索のために商人見習いの鴻屋 心太少年が買い集めてきたものである。 包みから出てきたのは、金属探知機やサーモグラフィー、地中内レーダー、ソナーなどで物探しというよりは未確認生物でも捕獲にきたかのような物々しさであった。 「ねえ、心太。これはなに?」 クレージュが指さしたのは、中ほどで折れ曲がったL字状の一対の細長い棒。一見して機械的な要素は皆無で、これだけが用意した道具から浮いていた。 「あー、それはダウジングロッド言うてな。ちょっと持ってみ?」 そういうと心太は二本のL字棒をクレージュに手渡した。 「で、片方ずつ片手にもって、そうそう、先端を先に向けるようにな」 クレージュは言われたとおり、一対の棒の先端を遺跡の奥に向けるように持つ。すると棒の先端がぴくりぴくりと動きだしたではないか。 「え、え?何か動き出したよ?」 「そら、そういうもんやしな」 クレージュは、ふんふんと興味深げにうなづきつつ棒が動くのに合わせて視線を動かしていたが、急に訝しげに小首をかしげた。 「これってそういうマジックアイテムなの?」 「そんなわけないやろ?棒自体はただの鉄の棒や」 「え?鉄の棒にそんな力があるの?」 「あるわけないやろ?」 「え?じゃあ、なんのためにあるの、これ?」 困惑するクレージュをよそに、心太はロッドを受け取ると、 「荷物に勝手にはいっとってな。まあ、効果があるかは知らんけど、無いよりマシかと思ってな」 「ふーん」 「あ、摂政様呼んどるで。いこっ」 なおも訝しげな顔のクレージュを尻目に、心太は道具を包みなおして、少し前に進んだ一行の後を追った。 余談。 ちなみに越前の台所事情を知る人には、これらの道具を買う資金がどこから出たのか不思議に思う者もあるだろう。その謎を解くカギとして、こんな話がある。 先日、王犬スットコドッコイ様の犬小屋が置かれた地面の下から偶然、持ち主不明の大金が発見されたという。そしてそれを発見したのはまだ年端もいかない少年だったという話だが、はてさて。 なおこの後、藩王セントラル越前は人知れず涙をながしたとのことだが、それは本当の余談である。 【近接&白兵戦用】不破&赤い狐 先導していたクレージュが不意にぴくりと耳を揺らして足を止めた。妖精軌導のその鋭敏な感覚に、なにか粘ついたほの暗い感触が触れた。 前に、よくないものがいる。 思わず後ずさりかけたクレージュを支えるように、後ろから大きな手が肩に置かれた。クレージュを守れるよう、常に後ろを歩いていた不破の大きな手。その温かさにクレージュの表情から、少しだけ険が取れる。 振り向いたクレージュが何かを言いかける前に、後ろにいた不破が短く呟いた。 「下がってな」 クレージュは大人しく頷いた。普段でこそ、この少年に頭の上がらない不破ではあるが、逆にこと有事とあらば、この男がどれだけ頼れる存在であるか、少年はよく知っていた。 クレージュが前を譲るのに合わせて二人の男がゆっくりと前に出る。 同時に、鞘走る刀の抜き身の輝き。薄暗い遺跡に一筋の光輝が走り、わだかまる闇を吹き散らす。 「心配するな。俺はお前の剣だ。お前には指一本触れさせねえよ」 「さって。やるときはやるってこと、ここいらで見せとかないとねぇ」 前に出た男二人。不破と赤い狐。越前でも名だたる剣の達人―――――至金剛。 二人は敵の放つ殺気などどこ吹く風と受け流すと、常と変らぬ雰囲気のまま剣を構えた。 そこには緊張感どころか、正体のわからぬ敵を前にした不安も恐怖も見ては取れない。 常在戦場。戦人にとっての心がけとして伝わる言葉だが、この二人はまさにそれを忠実に体現していた。 敵の放つ殺気が膨れ上がる。二人は合図もせずに二手に分かれると、まるで獣のアギトを思わせる勢いで双方から敵に飛び込んでいった。