情報戦行為 越前・ハッカー 薄暗い部屋。指揮所に設けられた一室。 部屋にところ狭しと置かれた端末群が、主の帰りを待つ忠犬のように低い唸りをあげてアイドリング状態 を保っている。 「――――接続(コネクト)」 モニターで囲まれた部屋がその一言で一斉に目を覚ます。 次々と点灯する端末群。それらを見ることもなく、越前の誇る<電脳摂政>黒埼は、設えられたリクライニングチェアに深々と腰を下ろした。 何本ものプラグを首筋の後ろに突き立てる。 接続された端末群は今や彼の頭脳、手足の延長である。 それと同時に、視覚野にナショナルネットからの情報が次々と飛び込んでくる。 越前一の機術師、他国ではハッカーと呼ばれる電子的情報技能のエキスパートたる彼は、この一室に供えられた演算機全てを高機動I=Dのように振り回して駆使する驚異的な処理能力を誇る。 その力で普段は国内の政務、市場動向の監視やナショナルネットの整備など膨大なマルチタスクを行い、越前国に貢献している。 だがその彼が、持てる処理能力を全て、あることに向けていた。 敵戦闘機から攻撃を受けた時は完全な敗北と言えたが、敵のミサイル誘導方法・戦闘機間の通信手段・暗号化手順・など、様々な情報が得られており、多国のハッカーや国の中央演算機、機術師隊を通して、既にこれらの分析結果は届いている。 後はこれをどう活かすか。それは機械ではない、人の身たる彼にしか出来ないことでもある。 「多重防壁展開。追跡者用逆探知網構築。……セーフティ確保。……侵入開始」 網膜内に展開する疑似情報空間内を自由に駆け巡り、その成す事象は魔術のごとし。 <機術師>の名は彼のためにこそあると人は言う。 そして、誰も知らない深い深い領域から、静かなる反撃の一矢が放たれる――――。