情報戦行為 ハッカー 事前準備 「電蟲、侵入確認」 「……どうだ?」 「侵食率25…49……100%。防壁突破!システム、掌握されました」 その場にいた全員の口から落胆のため息が漏れる。 「またダメか…」 「今回は行けると思ったんだが…」 「守ることだけ考えていたらダメではないのか?」 「ふむ…」 突如宇宙から現われ敵―――赤オーマの解析が各部署で進んでいた。 とりわけ、越前は以前の戦いで敵偵察機が放ったジャミングポッドによってレーダーを無効化されている。 電子情報戦を専門とするハッカー達は、これを踏まえ次に戦闘が起こった際の対策に追われていた。 通信網の強化。敵が情報戦を仕掛けた際の対処。 その一貫として敵がナショナルネットワーク内に侵入してきた場合に備えたネット内に展開される防壁の強化を彼らは担当していた。 これまでは単一の防壁の展開で対応していたが、それだけでは本格的な情報戦では勝てない。 そこで、防壁を食い破る情報のウィルス=電蟲を作成し、強化した防壁にぶつける、という試みを彼らは繰り返していた。 だが矛と盾の関係は、やはり矛に分があるもの。今のところ防壁は一歩後れを取っていた。 しかし、各国の才能が集まった場所だけはある。彼らは失敗しても即座に対策を打ち出すと、 また作業にかかる。まるで諦めないことこそ、自分たちの美徳だとでもいうように。 「こういうのはどうだ?」 そう言って彼が提唱したのは、展開した電蟲を逆に食う防壁という、それまでの考えからすれば奇想天外な発想だった。 「つまり、侵入を確認した時点で、防壁を展開する一方、その侵入元や電蟲本体に対して攻撃を仕掛け、電蟲は情報的に意味の無い存在に変え、その侵入元に対しては逆探知を行ってこちらから侵入をしかける」 まさに攻性の防壁。盾と矛の逆転。矛を砕く驚異の盾の理論。 彼らは目を輝かせた。それがどれだけ技術的に達成が困難なことかはよくわかっていた。だが、むしろ彼らは達成が困難な分だけ熱意を燃やす、そんな生き物だった。 電子技術に魅せられた者たち、ハッカー。 彼らの夜はまだ長い―――。 その後、彼らが研究した技術は電子妖精という名前の成果へとやがて結実されることとなる…。