「発表があったぞ」 藩王会議から戻ってきたセントラル越前の第一声がそれだった。 「はっ」 一体何事の通達かと、摂政・黒埼は身を固くする。 「して、その発表とは?」 「うむ、これだ」 そういって藩王が懐から一枚の紙切れを取り出した。 その紙には大きく太い文字で「全国共通宝くじ 当選発表」と書かれている。 「……藩王、これは?」 「だから発表。宝くじ当選の」 その紙を筒状に丸めて握り締めつつ黒埼がさらに問うた。 「で、これがなんとしました?」 「ほれ、先日みなで宝くじを買ったであろう?」 「ああ、そういえば…」 ここ数日の忙しさですっかり忘れていたが、少し前に、全国共通宝くじが売り出され、何か当たればと自分と藩王を含めて14人の越前藩国民がその宝くじを購入していたのだった。 「何か当たっておればよいのだがな。宝くじを買ったものを館に集めろ。くじ券を持って来させるのを忘れるなよ」 かくして―― 藩王の館の一室に、越前藩国の民が集められた。藩王をはじめそれぞれが、自分のくじ券を手にしている。 「ぬう、はずれたか」 最初にくじ券を確認したのは藩王。 「ぼくもハズレです〜」 「ぼくもや。んー、残念」 次に当選確認をしたのはクレージュと心太。 「くじ運の悪さ、ここにきわまれり」 言いながら自分のくじ券をびりびりと破りだした不破。 「あたれば贅沢三昧しようと思ってたのにー」 悔しさ全開に叫んで券を握りつぶしたのは灯萌。 「ともねえ、ナニ企んでたのー?」 悪戯っぽい微笑を浮かべて灯萌に訊ねる刀岐乃もハズレ。 その後ろでRANKが無言でくじ券をくずかごに捨てたところを見ると彼もハズレらしい。 「確認した者はまだ確認してない者に紙をまわしてやれ」 藩王の指示に佐倉が懐からメモを取り出してなにやら記す。 「あと確認するのはわたしを含めて6人ですね」 どうやらそれには宝くじの購入者が記してあるらしい。 「で、佐倉は当選したのか?」 黒埼が佐倉に紙を渡しながら問う。自分のくじ券を閑羽に渡して紙飛行機にさせてしまったところを見ると、黒埼も当選の幸運からは見放されたようだ。 「…ハズレだ。せめて食料でもあたればと期待していたのだがな」 佐倉も自分のくじ券を確認して、軽くため息をついて見せた。 「佐倉さま。夜薙さまとSEIRYUさまと閑羽さまがまだ確認してませんよ」 クレージュに促されて、佐倉が手にしていた紙を夜薙に渡す。 「ん? 購入者の中にWishくんと朱居くんの名があるが…、姿が見えんな」 「まりあさまがまた籠もりっきりで仕事してるからおねぇさまが引きずり出し…ごほん。今、呼びに行っています」 「まったく、毎度毎度無理をするなといってるのに」 「やれやれ。懸命に働いてくれるのはありがたいが、それで本人が身体を壊しては本末転倒というものよな」 ハズレ券を団扇のように使ってパタパタと仰ぎながら、藩王がため息混じりに言ったところで当のまりあがWishに連れられて入ってきた。 「ハズレー」 「おなじくー」 SEIRYUと夜薙が自分のくじ券をくずかごに放る。 「あと確認してないのはそこの3人だけだな?」 藩王が入ってきたWishtたちと、それにまとわりついてなにやらはしゃいでいる閑羽に声をかけた。 「まりあさんがくじ券を入れたお守り袋を管理してくださっていたんですよ」 「ほう、お守り袋?」 「しずはが作ったんだよー」 興味を持ったらしい藩王に、閑羽がそれを示す。 まりあの手に握られていたそれは、いかにも手作りといった風情の赤いフェルトの袋で、小さなぽんぽんが二つ結わえ付けられていた。 「はて、そのぽんぽん…。どこかで見たような?」 「スットコドッコイさまの抜け毛〜♪」 首をかしげる藩王に閑羽が応えた。 「この前ブラッシングしたらいっぱい出たの」 「ははは、最近抜け毛が少ないような気がしてたのはそのせいか」 王犬に対する不埒な振る舞いを咎めもせず、セントラル越前は豪快に笑った。 その間にWishとまりあが閑羽の分も含めた3枚のくじ券の当選を確認していた。 「あ、あたってる。私のも、閑羽ちゃんのも」 「わたしのもです。全員3等の食料1万トンですけれど」 「わー、みなさまおめでとうございます〜」 クレージュがぱたぱたとしっぽを振る。その姿は越前藩国一の愛らしさを誇るかもしれない。 「いちまんとん〜?」 当選者の一人である閑羽は、一万トンという数量が理解できていないようだ。 「ふむ、抜け毛とはいえさすがは王犬といったところか」 騒ぎから少し離れたところで佐倉が感心したようにつぶやく。 「さて、確か3等は先着100名までが当選権があるのだったな?」 藩王に問われ黒埼があわてて足元に飛んできたくじ券の紙飛行機を拾い上げる。 裏面に小さい文字で確かに藩王の言うとおりのことが記してあった。 「では急いで受領所へ行かなくては」 「でも、一万トンもの食糧、どうやって渡されるの? まさか一万トンの塊でぽんとくれるわけじゃないよね?」 お守り袋を上着のポケットにしまいながら、まりあが黒埼に尋ねた。 「それに一口に食料って言っても、いろいろあるぞ。3万トン丸々米だったら笑うに笑えねえ」 細かくなったくじ券をひらひらとくずかごに落しながら不破が口を挟んだ。 「まあ、越前は稲作の藩国ですからね。選べるのだったらお味噌なんかいいですね。利用の幅も広いし保存もきくし」 「選べるんなら…酒!」 「Wishさん、それは食料じゃありません」 まりあが冷たく言い放った。。 「冗談です」 震える声で言うWishの瞳には涙が滲んでいた。 「希望が通せるんだったら加工肉がいいですね。ハムとかソーセージとか。単に干し肉でもいいけど」 こっそり涙をぬぐうWishをよそに、まりあが自分の希望を述べる。 「なんにせよ、受領所にきいてみなくては何がもらえるのかもどうやってもらえるのかもわかるまい? 黒埼、すぐに受領所に連絡。代理での手続きが認められるか否かと、賞品をどのように渡されるのかを確認してまいれ」 「はっ」 藩王の命令一下、素早く黒埼が行動に移る。 いつの間にか部屋につれてこられた王犬とチビクレ、宝くじを買っていない国民も交えてわいわいと和やかな時間が続いた。 自分はあたったら何が欲しかっただの、もらえる食料は何がいいかだのと、夢の残滓を語り合う国民たちの顔はみな楽しそうだ。ここが帝国有数の貧乏藩国だとは思えない笑顔があふれている。 「問い合わせが完了しました」 黒埼が戻った。 「藩王、報告よろしいですか?」 「うむ」 「代理受け取りは不可。必ず当選した本人がくじ券と賞品を引き換えに来ること。賞品が食料の場合は、米、小麦粉、加工肉、豆類など選べるそうです。ただし、先着順なので遅くなれば選択権がなくなることもありうると」 「では受け取りは急いだほうがよいな。受け取りはどのように?」 「現物支給だそうです」 「…………。すまん黒埼、もう一度言ってくれるか?」 「現物支給だそうです」 一瞬の沈黙の後、驚愕の声とはじけた笑い声が交錯した。 翌日、宝くじの当選賞品である食料3万トンを運ぶために、藩国内の豪腕剣士たちが駆り出された。 その中に、大量の食品を運びつつ、「干し肉はベーコン代わりに使って目玉焼きと。豆腐はやっぱ味噌汁だよなあ。あ、小豆ご飯もいいな」とひとりでウキウキと献立を考える不破陽多の姿があったが、同じ作業をする豪腕剣士たちからは、見ないフリをされていたという情報があるが、真偽は定かではない。