たけきのこ。 わんわん帝國・たけきの藩国の藩王にして侯爵。 帝國内でも随一な美姫である。 にゃんにゃん共和国前大統領タマに囚われた折、FEGの是空藩王に助けられた経歴の持ち主。 その縁があってのことか、先だっては是空藩王を国ごと引き抜くために輿入れへ向かい、敵襲にあって帰国。 直後、藩国が根源種族に襲撃されて現在はFVBへ亡命しているという、波乱万丈な物語を持つ美姫である。 セントラル越前。 同じくわんわん帝國・越前藩国の藩王にして子爵。 顔のほとんどを覆い隠す金属のマスクで有名であり、その他には…… えーと……その、何だ。 あんまり他人の印象には残らない人物である。 ……書いててちょっと泣きそうになった。でも負けない。 「たけきのこ藩王。あなたはおまじない、というものを信じますか?」 深夜に及んだ藩王会議が閉会となり、いい加減寝ようと思っていたたけきのこは、議長に呼び止められた。 「……唐突ですね、越前藩王」 鈴の鳴るような、という表現がふさわしい声も、長時間の会議でやや疲労の色が写る。 ……いや、その疲労は、会議だけによるものではないだろう。 牢に繋がれて拷問をうけ。藩国を追われ、命を狙われた。それだけでも余人には余りあるストレスである。 その挙句、他世界へと繋がるWTGがいつのまにか頭上にあったとなれば、その疲労は計り知れない。 「おまじない、ですか……」 かつて共和国で彼女を助けた男が歌っていた歌を思い出す。 あの歌もきっとおまじないだ。でもそのおまじないは、彼に立ち向かう勇気、そして覚悟を与えたように見えた。 ならば。 「そうですね。私は信じます」 きっとそれは実在するものだから、と、たけきのこは答える。 その答えに、安心したように頷く越前。 「それはよかった。私が今、貴女にして差し上げられるのが、おまじないくらいしかないものでして」 越前藩国は弱小国である。 国民の数こそわんわん帝國でも上位に位置するが、その台所事情は常に自転車操業。 さらに、戦力として有効なI=Dを一切保有しないため、他の歩兵国家と同じく、戦争では少し肩身が狭いのである。 申し訳なさそうに目を瞑り、肩をちぢこめる越前。そのしぐさが妙にこっけいで、つい笑みが浮かんでしまう。 「そうですか。じゃあ、その『おまじない』を頂戴できますか?」 「おお。では、お手を拝借します」 越前は白魚のような手をとると、手のひらを指で何かの模様をなぞり、そして歌い始めた。 / * / 「……」 「……」 歌が終わり、ひと時の沈黙が訪れる。 「あの、越前藩王」 「……」 越前は、指でたけきのこのやわらかい手をなぞり続けている。 「……ぐふふ」 びくっ、と肩を震わせるたけきのこ。 「何セクハラ働いてるんですか藩王ーッ!」 がいーん。 スコップのようなもので側頭部を殴り飛ばされ、地面に沈むセントラル越前。 現れたのは越前藩国が摂政、黒埼である。 「も、申し訳ありませんたけきのこ藩王! うちの藩王にはあとで厳しくいっておきますから!」 ぺこぺこと頭をさげつつ、可及的速やかに気絶した越前を引きずって撤収する。 「……け、結局、いまのは……?」 あとには、よく分からないままのたけきのこ藩王が残されたのだった。